記録番号:LIM-011
記録日時:2013年8月7日(午後4時32分頃)
調査担当:境界現象研究班 第二分隊

観測記録
きれいな場所だった。それが、最初に感じた違和感だった。
四方を白い壁に囲まれた中庭だった。床は鮮やかな緑の芝で、中央に丸いプールがあった。上を見ると青空で、雲が浮かんでいた。気持ちのいい昼間の庭に見えた。
壁にガラス扉がいくつも並んでいた。等間隔に、きれいに並んでいた。全部、開かなかった。ひとつも開かなかった。
空を測定したら、天井に映像が投影されている可能性が出た。本物の空ではないらしい。壁の上部に直線状の光源があって、昼も夜も同じ明るさで光っていた。
芝の横に小さな木が二本、対称に植えられていた。葉を採取したら、すぐに砂になって崩れた。根があるのかどうかも、わからなかった。
分析
プールの水は透明で、異常はなかった。触れた調査員が「底が見えない」と言った。水深を測ろうとしたが、計測できなかった。見た目は浅いプールなのに、底がない。垂直に落ちていくような感覚がした、と。
空の映像は、見ている間は安心する。自然に見えるから。でも見ているうちに、出口がないことを思い出す。空があるのに外に出られない。その落差が、じわじわと効いてくるらしい。
葉が砂になった。木は今も立っている。でも中身がない。形だけがある。
結語
完璧に整った庭だった。芝は均一で、木は対称で、空は青かった。誰かが丁寧に設計した場所に見えた。
でも扉は開かない。空は本物じゃない。木は触ったら崩れる。
プールだけが、何も答えなかった。水面は静止したままで、風にも揺れず、触れても波紋が立つだけで、底を見せなかった。
調査員のひとりが「ここは誰かのために作られた場所だと思う。ただ、その誰かはもういない」と書き残している。今もその庭は、誰かを待っているのかもしれない。
記録番号: OBS-057目撃者: 被験者K.R.(仮名)収集方法: 聴取による証言 証言内容 続きを見る
OBS-011:閉ざされた空の庭