記録番号:LIM-007
記録日時:2014年3月3日(午前4時42分頃)
調査担当:境界現象研究班 第二分隊
観測記録
調査員は屋内構造物の奥にて、二基のエスカレーターと中央の水流が同居する空間に到達した。
両側の階段は稼働状態にあるが、乗り込もうとした場合、機構は直ちに停止し、昇降を拒絶する挙動を示した。
中央部には滝状の流水が上方から落下しており、下部は水路と接続。水質は透明で、塩分・有機物いずれも検出されなかった。天井部の開口部からは強い青白い光が差し込んでいたが、外界との物理的接続は不明。
出口標識「EXIT」が明確に掲示されているが、調査員が上部を目指すと、到達点は同一構造が再帰的に生成されることが報告された。すなわち、上昇を続ける限り、同一の水流階段が無限に反復される。
分析
LIM-007は「昇降装置と流水構造の融合現象」として暫定分類される。
その外観は公共施設の退避経路を模倣しているが、実際には出口機能を持たず、観察者を循環的に拘束する目的が示唆される。
注目すべきは、調査員が上昇を繰り返すほど、落下する水量が増大し、最終的には階段全域が水流に覆われる現象である。これは、観測行為そのものが空間の水圧を増幅させる「フィードバック構造」を持つ可能性を示している。
また、エスカレーター側面の安全標識や警告表示は実在の公共施設のものと一致するが、製造元の痕跡やメンテナンス構造は存在せず、装置全体が「模倣的外観」のみによって成立していることが確認された。
結語
LIM-007は「出口」を偽装しながら自己複製的に展開する昇降型迷宮である。
調査員は空間の上昇方向を進む限り無限回帰に囚われ、また水流の増幅によって物理的な退路を失う可能性が高い。
境界現象研究班は、この現象を「擬態的退避構造体」として長期観察対象に指定した。
記録番号: OBS-021目撃者: 被験者R.T.(仮名)収集方法: 聴取による証言 証言内容 続きを見る
OBS-007:水流階段と偽りの出口