記録番号:LIM-006
記録日時:2014年2月19日(午前2時10分頃)
調査担当:境界現象研究班 第三分隊
観測記録
調査員は水で満たされた屋内の中庭に到達した。
床面中央には矩形に区切られた水路が流れ込み、天井部には蛍光灯が規則正しく並び、白色光が水面に反射して強い人工的な輝度を放っていた。
中庭の周囲には淡いピンクと白の花を咲かせる低木が整然と配置されていたが、土壌や灌水設備は確認されなかった。植物群は根を持たず、その基部は床面と一体化しているように見える。
複数の扉が開かれており、その一部は外部に通じているように見えたが、通過を試みた調査員は「次の部屋も同一の中庭が連続する」現象を報告。奥に進むほど空間は暗転し、最終的には星のない漆黒の水域に接続される。
分析
LIM-006は「建築空間と庭園要素の水没的融合現象」として暫定分類される。
外観は人間が意図的に設計した中庭構造を模倣しているが、植物の非生物的性質や無限回廊的な連続性から、この空間は自律的に自己生成・拡張を繰り返している可能性が高い。
注目すべきは、調査員が空間内に滞在する時間が長引くほど、花々が観測者の方向へ「首を傾ける」ように配列を変化させるという報告である。これは受動的な景観ではなく、観察そのものに対して反応するインタラクティブ構造であると考えられる。
また、水路は外部とつながる形跡を持たないが、水質は常に澄明で、温度は一定。流入源・排出口とも確認不能。
結語
LIM-006は「庭園」「水路」「回廊構造」を統合した自己複製的閉鎖空間である。
本現象は明確な出口を持たず、進行方向によって「自然」「虚無」の二つの終端に分岐する。
境界現象研究班は、この現象を「観測者誘導型庭園構造体」として長期的観察対象に指定した。