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LIM-009:水没回廊に並ぶ椅子群
記録番号:LIM-009記録日時:2016年11月2日(午前3時41分頃)調査担当:境界現象研究班 第二分隊 観測記録 調査地点は夜間、濃霧の発生する水域に接続された構造物内で確認された。外部から延び ...
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記録番号: OBS-009
目撃者: 被験者H.K.(仮名)
収集方法: 聴取による証言
証言内容

気がつくと、足元がすでに水の中でした。膝まで沈んでいるのに、体は冷たくないんです。
ただ、水面に映る自分の影が、ほんの少し遅れて動いているのが気味悪くて……。
目の前には白い椅子が、真っ直ぐに並んでいました。ひとつひとつ間隔は等しくて、まるで誰かが座るのを待っているみたいに。
触ってみたら確かに固いのに、水に沈むことも揺れることもありませんでした。
それから、横の壁が淡く光っていることに気づきました。水色、桃色、黄色……色がゆっくりと変わっていって、呼吸に合わせて脈打つようにも見えました。
その光を見ていると、いつの間にか「椅子に座らなければならない」という気持ちが強くなってきたんです。
座った瞬間、背後から水の中を歩く音がしました。振り返ったのに、誰もいません。
でも、その椅子の列の一番奥だけ、確かに“人が腰掛けていた”気配があったんです。
霧が濃くなって、視界が奪われていく中で、最後に見えたのは壁に映った自分の影でした。
……ただ、その影は椅子に座ったまま動かず、僕だけが立ち上がっていたんです。