OBS-008：逆さまの水面と浮遊する家

真っ白な廊下を歩いていたんです。どこまでも続く無機質な壁で、窓はあるのに外は見えませんでした。
不思議と足音が響かなくて、まるで夢の中を進んでいるような感覚でした。

見上げたとき、あり得ないものが目に入ったんです。天井が……水で満たされていました。
しかもその水面の中に、一軒の家が沈んでいるように見えたんです。
青白い光が差し込んで、家の窓の奥に何か影のようなものが動いた気がしました。

一瞬、家の中からこちらを覗いている“人影”が見えたような……でも瞬きをするともう何もなくて。
ただ、確かに「誰かが暮らしている気配」だけが残っていました。

廊下を戻ろうと振り返ったら、道が変わっていました。
来たはずの入口は消えていて、同じ白い壁と窓が続くだけ。

進むほどに、水面に映る自分の姿が歪んでいきました。最後に見たのは、家の窓に映った“自分とは違う顔”だったんです。