まず最初に言っておきます。
これを読んでいるということは、あなたはとりあえず「帰ってきた」のだと思います。よかった。本当によかった。
でも、帰ってきたことと、「元のあなたで帰ってきた」ことは、厳密には別の話です。
調査員の間でずっと言われていることがある。向こう側の空間は、人を追い返すとき、必ずしも「元の状態」で返してくれるわけじゃない、と。本人は気づかない。周りも最初は気づかない。でも少しずつ、ズレが出てくる。
帰還後24時間以内に、以下を確認してください。
【鏡の確認】

全身鏡の前に立って、自分の目を見る。それだけでいい。
ただし、先に瞬きをしたのがどちらか、確認すること。
鏡の中の自分が先に瞬きをした場合、この記録を保管しておくことを強く勧める。誰かに連絡を取れるなら、今すぐ取った方がいいです。
瞬きのタイミングが「同時すぎる」場合も、注意が必要です。本来、鏡は完全には同期しない。微妙なズレがあるのが正常だ。完璧に一致している場合、それは鏡が「合わせてきている」可能性があります。
【影の確認】

光源が一つの部屋で、自分の影を確認する。
影の向きは正しいか。影の輪郭は、自分の体の形と一致しているか。
報告の中に、こういうものがあります。帰還した調査員の影が、数日間だけ「少し遅れて動いた」という証言だ。本人は最後まで気づかなかった。気づいたのは同居していた家族でした。
影が正しく動いているか、できれば第三者に確認してもらうことを勧めます。自分では判断しにくいので。
【名前の確認】

帰還後、誰かに名前を呼ばれた気がしたことはないか。
声の方向に人がいない場合、特に注意してほしいです。向こう側の空間は、名前を知ると引き戻そうとする場合があります。呼ばれた気がしても、返事をしないことです。特に「なに?」と声に出して答えるのは避けてください。
また逆に、自分の名前を思い出せない瞬間があった場合も記録しておくこと。一瞬でも「自分が何という名前だったか」が飛んだ感覚があれば、それは空間が名前の一部を持っていったサインかもしれないからです。
【記憶の確認】

調査に行く前の記憶を、三つ思い出してほしい。どんな些細なことでもいいです。朝食に何を食べたか、出発前に誰かと話したか、靴ひもを結んだのはどちらの足からだったか。
思い出せますか?
思い出せない項目がある場合、空間が「入り口付近の記憶」を削って帰した可能性があります。多くの場合、数日で戻る。戻らない場合は、その空白を他の記憶で埋めようとしないこと。埋めた記憶は向こうのものになってしまいます。
【体温の確認】

帰還後、体が妙に冷たいと感じるか。あるいは、周囲の人間から「手が冷たい」と言われるか。
水系のリミナルスペースから帰った調査員に多い症状です。数時間で改善されることがほとんどだが、三日以上続く場合は記録に残しておくこと。
湯船に浸かることで改善するという報告が多いです。ただし、湯船の中で「水面が静止している」と感じた場合は、すぐに出ること。
【最終確認】
以上を全てクリアしたなら、おそらくあなたは元のあなたで帰ってきています。
おそらく、というのは、完全な確認方法が存在しないからだ。どれだけ確認しても、最後の一割は信じるしかないです。
でも一つだけ、確実なことがあります。
帰ってきたいと思って、帰ってきた。それだけは本物だ。どんな空間も、それを奪うことはできません。今のところは。
お疲れ様でした。ゆっくり休んでほしい。
ただし、できれば、一人で寝ないことを勧める。最初の夜だけでいいですから。
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