記録番号:LIM-005
記録日時:2013年6月8日(午後11時40分頃)
調査担当:境界現象研究班 第二分隊
観測記録
調査員は水位が床面を覆う展示室に侵入した。
内部は淡い桃色に塗装され、壁面には「DREAM CORE」と記された標識が確認された。
部屋の中央には大型の水槽が設置されており、下層には小型魚類が群泳し、上層には人間用と思われる少女サイズのドレスがマネキンなしで浮遊している。衣服は水に濡れていないように見え、布地の揺れは周囲の水流ではなく独立したリズムに従っていた。
天井部には円形の凹みがあり、内側の水面に複数の魚影が出現。これらは「上方から水槽を覗き込む」ような錯覚を引き起こす。魚影が実体を伴っているか否かは確認不能。
出口付近の「EXIT」サインは点灯していたが、扉を開けた先は通常の建築空間ではなく、同じ展示室が繰り返されるループ構造が観測された。
分析
この空間は「展示物の自己演算現象」として暫定分類される。
特に注目すべきは、無人の衣服が「存在展示」の形式をとっている点である。これは従来の人工展示の枠を逸脱し、観察者に「展示を見られている」という逆転感覚を引き起こす。
また、壁面の“DREAM CORE”表記は、この空間全体が一種の自己言及的構造を持つことを示唆している。すなわち、観測者は「夢の核」を直接的に体験させられている可能性がある。
水位は一定に保たれているが、調査員の精神的緊張に比例して波紋が拡大する傾向が報告されている。
結語
LIM-005は「夢・展示・水没」という三要素が融合した閉鎖空間である。
この空間は通常の出口を持たず、観測者は自己の記憶が反映された展示物に直面する可能性がある。
回収や干渉は困難であり、研究班は「観察のみを行うべき対象」と結論した。
本現象は「夢核構造体」として長期的観測の対象に指定された。
記録番号:OBS-019目撃者:仮称「R」収集方法:断片的証言の記録(境界研究班 第一小隊による) 証言内容 続きを見る
OBS-005:水没する展示室と浮遊する少女服